6月の海の上に浮かぶ雲はキミを憶えていますか
風が渦巻いています
風速20mで雲が流されていきます
懇切丁寧な日ざしのもとで
小麦色になったキメの細かい肌はサンオイルで照り返されています
そこから先は遊泳禁止区域です
と英語でいわれたので波止場の突堤で
ぼんやりと雲の浮かぶのをながめていました
歴史は浜辺で寝そべる男の子と女の子にも
ことさら丁寧に降りそそいでいます
やたらと毛深いレスキュー隊員が近づいてきて
お前中国人か
ときいてきました
めんどうくさいのでアチョーといっておきました
雲があまりじろじろ見られることに慣れていないから
風速20mの中に消えていきました
ビーチに寝そべっていると
片腕のない男がサーフボードをかかえて
波の様子を眺めています
今日の波はどうなの
とボクは波に乗らないので興味本位できいてみました
片腕の男はサーフボードを浜へ立てながら
どうもこうもないといった身振りをしました
ボクの訛りがひどかったのでうまく伝わらなかったようです
たくさんなくしものをしました
アメックスのカードと
お気に入りの文庫本
彼女のボクに対する興味
共産主義思想と
南の国の6月の海に浮かぶ雲
彼女にたのまれたのでビーチのバーにいって
ソルティードックを2つ買いました
現金が残り少ないのに気づいてまいったなあと思いました
まあここは
南の国の浜辺なんだから
なんとかなるだろうと思って
鼻歌なんかをしながら彼女にそれを渡して隣に腰をかけました
彼女はいいました
「今晩はお肉が食べたい
とびっきり分厚くてジューシーでパイナップルがのっかっていないやつ」
そうだよな
6月の海の雲をないものにするよりは
よっぽどたやすくできることだと思う
彼女のちょっとした我儘はとてもかわいらしく思えました
キミは南の国の浜辺で小麦色になって
ソルティードックを飲んでいたんだよ
たまには思い出してよね