言語の螺旋

言語の螺旋
陰陽五行でいうところの水の流れがいいところ

2009年2月8日日曜日

ここではないとても清潔で明るいお店で


「キミたちにはわからないんだ、このお店は清潔で感じがいい、カプチーノもうまい。電燈も明るいし、そう、照明がとてもすばらしい。今頃は木の葉陰もあるし風も通り抜けて清々しい」
「おやすみ」若いほうの店員がいった
「おやすみ」彼もいった。電燈を消しながら心の中で彼は言葉をつづけた。そう、明りは勿論必要だ。でも店は清潔で感じがよくなくっちゃいけないん だ。音楽なんかどうでもいい。そうだBGMなんかは必要ない。こんな時間に開いているのはbarくらいのもんだが、格好つけて酒場のスタンドで止まり木 にもたれかかっている場合じゃぁない。彼は何を恐れているのか?いや、慄きでもびくつきでもない。すっかり馴染んでしまった虚無ってやつが彼を覆っている んだ。すべてが無なんだ。人間も無なんだ。それだけのこと・・・。必要なのは明りだけだ。それと、ある種の清潔さと秩序だ。虚無の中に住みながら、まった くそれ気付かないものもいるけれども彼は知っている。---すべては無にして無、かつ無にしてまた無に過ぎぬのだ。無にまします吾らが無よ、願わくば御名 の無ならんことを、御国の無ならんことを、御心の無におけるがごとく、無においても無ならんことを。われらが無を、吾らの日常の無を与え給え、吾らがを無 にするごとく、吾らの無を無させ給え。吾らを無の中に無することなく、無より救い給え。かくて無。無に満ちたる無を祝福し給へ、無は、汝のものなればな り。彼は哄笑した。そしてぴかぴかに輝く蒸気圧搾コーヒー機のあるスタンドの前にたたずんだ。
「なに飲みます?」とバーテンダー。
「無だ!!」と彼。
「またキチガイがひとりきたよ」バーテンダーは無関心に仕事に戻った。
「エスプレッソカップでな」店員が口を挟む。
バーテンダーは無口にエスプレッソをさしだした。
「照明はとても明るくて感じがいいが、カウンターをもっと磨かなくっちゃ」店員はいった。
バーテンダーは彼を見たが返事はしなかった。あれこれお喋りするには夜が深すぎた。
「おかわりは?」とバーテン。
「有難う」店員はそういうと外へ出て伸びをした。彼はbarや居酒屋は好きじゃあなかった。清潔でいて明るいcafeとはまるで別物だった。さ て、これ以上考えるのはよして家路に着くとしよう。寝床にもぐりこんだら夜が明ける頃には寝つけることだろう。結局、と彼は声に出していう。ただの不眠症 に過ぎないんだ、霊長類ヒト化における誰でもよくある病気の一つなんだから。

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