言語の螺旋

言語の螺旋
陰陽五行でいうところの水の流れがいいところ

2010年3月14日日曜日

カトリック王党


かつて戦士といわれた男がいた

職業軍人だった

黒い革のブーツが痛んだので街の靴屋に修理に出した

そこの娘は線の細い可憐な女の子だった

一目ぼれだった

そのときはもちろん甲冑は着ていなかったのだが

その締まった体やうきでた血管殺し屋の目つきからするとまさか街の花屋さんには見えなかった

彼女とは二言三しか口がきけなかった

そんな不器用な彼の震えた唇を見て彼女は微笑を浮かべた

礼を言って街に出ると並木の足元に雛が横たわっていた

その傍には日の光を浴びてあざやかな紫色をした小さな判が咲いていた

梢には羽虫が羽を休めて首を左右に向けていた

街行く人たちからは頭2つ分ほど大きな男が木の根元にうずくまっているのをみて

また過ぎ去り

すぐにまた自分達の話へと戻し

記憶の隅に忘れられていった

この街はまだ戦争というものを経験したことがない若くて小さいが平和でにぎやかな街だった

靴屋の娘はまだ旦那はいないだろうか

そうだ

靴が出来上がったら

うちまで届けてくれるから

そのときにでもお茶を飲むように誘おう

なにか礼のプレゼントでも買っておいたほうが良いかもしれない

何が良いかと考えながら通りを横切っていたら

馬車にひかれそうになった

男からは乱暴な口調で怒鳴られいつもだったら喧嘩になるところだったが

なぜか幸せな気持ちだったので

すまん

とだけいって

それでも歩調はかわらず並木道から離れていった

人通りの少なくなった横道に一軒の雑貨屋があった

そんなところに似つかわしくない大きな男が現れたものだから

お店のおかみも驚いて

しかし

近所の男だとわかるとまた普通に挨拶をしてきた

珍しいねこんなところに来るなんて

とか

プレゼントかい

とか

あれこれと

考えた挙句

財布の中もちょっと心もとなかったから

マグカップにした

紫の花をあしらえたマグカップだった

自分の分の大き目のおんなじマグカップも買った

彼女は喜んでくれるだろうか?

あのブーツは相当痛んでいたから店主も難儀するだろうな

次の戦場に行くまでに

ほんのささやかな幸せの一日だった

帰ってから

自分のマグカップでお茶を飲んでみた

わるくない

そう口にだしていってみた

わるくない

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