言語の螺旋

言語の螺旋
陰陽五行でいうところの水の流れがいいところ

2012年9月18日火曜日

長いモノ「むらまつり」一部抜粋入浴癖



男は脇を洗うことにようやく納得いったようで、ろくにすすぎもせず大股で真っ直ぐに露天へ向かった。弾かれるように引き戸があいてしまる音、残響、耳鳴り。お湯を汲む。かぶる。湯温は鮮烈だった。温度の刺激で毛穴がひらき湿った大気から酸素を求め鳥肌が立った。
吐息まで漏らした。つつけざまにかぶると次第に馴染んできて表皮の脂が蕩けていくのだ。そこに愛はあるのかと性倒錯者ならもっと刺激を!この愚かなイワノフに針鞭を、零落したモノたちが潜み住む地上の一角ソドムでの狂宴つゆあはれ・・・もとへ、念入りに洗った。こうして出先でお湯にありつけることもままならない仕事が仕事なだけに機会を逃さない習性が身についてしまったと、脇の下ばかり洗う彼もそれなりの経験からその域に至ったのであろう。昔現場班の先輩と銭湯にいって言われたことの一つに、足の指の又まで洗う?ナルシストでキザな奴だ、きっとそいつは反社会的で非生産階級のろくでなしに違いない、というものがある。気にせず洗う。気持ちいい。なんといわれようがここは風呂だ。体を洗う場所だ。そこでイプセンが高らかに愛を歌おうがヘッセが自嘲気味に納屋での秘め事を語ろうがだ。それぞれにはそれぞれの持分がある。風呂のはいりかたくらい好きにさせてもらう。爪の先に入り込んだ泥を奇麗なほうの爪先でつつく。耳は外耳の隆起に沿ってまんべんなく指をいれる。胸筋のおちくぼんだところ、心肺蘇生法でちょうどその下指2本分を押さえることになっている場所にも石鹸を塗りたくる。ヘソのシワにたまったものはゴマではない。アカだ。当然ピンク色になるまで泡立てる。痛む。それぐらいがちょうど良い。
思えばまる三日風呂にはいっていなかったのだった。彼女が新潟から帰ってきて純米吟醸を飲んでビールを5リットル空けてからやさしく丁寧にやって寝た。明けたら女がいなかったので酒臭いまま事務所にいった。先方のDと打ち合わせがあったので一応事前に歯を磨いた。女だったからだ。地方の指定席特急は年金生活者のポマードの香料でヅツウがした。陰茎がガビガビなことも脛にわけのわからない青痣ができていることも生きている証なのだ。小さな石鹸が縦に割れた。爽やかな伸びをして、体に甘いところがないか負荷をかける方向で体調を試してみる。大丈夫まだ25といってもいいくらいだ。
湯船では弛緩しきっていた。鼻歌などでない。たゆたうままに体を揺すられつつ自失していた。涎が垂れた頃に目にはいった。蒸気で曇っていたもので、おまけに乱視なので、その目線から見えた風景。屋外の広めの湯船。丘がそこからはじまっているだろう剥き出しの岩肌。間伐材でできた屋根だけのところ。そこに壺湯。先ほどの3人よりもより老いて見える爺いと男が2人ではいっている。窮屈そうだ。仕事の上では無駄口を利かない彼がしゃべっている。とても熱心に語っている。身振り手振りも大きくなって爺いは苦笑している。唾まで飛沫んでいるようだ。察した。そっちのスイッチが入ったのだ。仕事はデキるやつなんだがなあ・・・

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