言語の螺旋

言語の螺旋
陰陽五行でいうところの水の流れがいいところ

2012年8月9日木曜日

雑感「固有名詞に執着しないことについて」#2


雑感「固有名詞に執着しないことについて」#2

その女の子の叔父さんとよく飲んだ。あけぴろげな性格で分別がしっかりしているから、わりと近親なハナシをする。
「それは違うよ○☆“!」
肩に置かれた彼の手が白熱して力強く励ましてくれているのがやさしい。
でも間違えている。
ファーストネームをである。
やれやれ、と思う。なんといっても心うちとけて、ビールまでおごってもらっていて貴重な時間を奪われたくないじゃないですか。彼は自信漫漫に間違った名を呼び親切なんだから間違った名を訂正すると、また2分経過する。きっと次の日、もしくは次にトイレに行って帰ってきたなら彼はまた自信を持って間違った名で言うことを知っているんだ。何度目かの訂正で直さなければならないほど、重大な損失じゃあない、と思う。そんなことの繰り返しで彼との関係を摩耗させたくないのだ。だいいちいまをもって彼は親しく微笑みかけてくれるし、割と個人的実情をくんでハナシを聞いてくれている。それでいいじゃん、と間違った名をききながしながら清潔に微笑み返す。
「信頼していますよ?□×凸おじさん」。
母が名をつけたのだろうと思う。父は、どちらかといえば理系のヒトで、言葉少なな肥後もっこすだから、必要以上を口にしない。背中で語るほうだった。母は別で、幼いころから物語を読んだり水彩や油彩を描いた。ぱっと見簡易で、それなのに読みが間違えられやすい名を3人につけた。3人ともがひとつひねった名を持っている。
兄弟と顔を合わせる度に、3人してハナス。
「○△×仕方ないよ」
「そうだよね□×○」
「そうだな☆△□」
 お互いに間違えて名を呼ぶ。
 もちろん
 わざとである。

0 件のコメント: