言語の螺旋

言語の螺旋
陰陽五行でいうところの水の流れがいいところ

2012年4月15日日曜日

雑感「物持ちが悪い」


物持ちが悪い。同じペンばかりをなくしている気がする。最初に失せたのはナップザックのポケットにそれはあまりにぞんざいだから失くしたとしてもしょうがない。腰で履く鞄に隙間を見つけて本来なら入れたくないのは手帳なのだが思い立った時に手元にないということで思考の停滞があるからなので大層に財布やら簡易カバンやらモンキーレンチの入るところにジッパーを閉めて手提げで持つというのも難儀だ。そしてその方法をとるとメモはいたたまれなく圧迫されており歪にひしゃげ原型は薄い直方体かろうじて。黄色いペンは有限の空間を張飛し、スイスアーミーナイフと隣するものであり、取りあげることがむしろ羞恥、幼い頃は同じ組の帰り道が一緒なだけの女の子と安易に結婚願望。そこに記すべく言葉はごつい腰鞄という中を覗くことにより、変質し、硬化し、ふさわしくない機微、常套句に飲みこまれてしまった後なのだ。
台北の首狩り族
仮定法未来
祝福
ジャンパーの内ポケットに入れてこれなら失くすまいと日中動いていて、不意にメモを取りだすと、失くなっていた。仕舞っていたのにもかかわらず、存在が失せた。もっと奥か?その内の右か左かとさぐってみたけれども無い。ためしに反対の内ポケットに手を入れてみたがいれた憶えがないのだから入っているはずがない。しかし、臨床視床下部海馬のなかでの記憶の挿げ替えが疑われるのでまさぐって、みたら、その内ポケットは内ポケットなのではなくポケットの裏地を型が崩れないように縫いつけられた空間だった。
ノルマンディーであんよは上手
不和
礼拝
右左とも、奥に子指一本分くらいの穴があいていたのである。そこまで縫わしているのだから全部万遍無く縫ってしまっても差し障りないのに子指一本分くらいの穴を開けるという工程が、その幾百台ものミシンが唸る構内で、女工たちが(地方ノ農家ノ次女、三女タチ)が熱心に、ポケットを縫いつけるという作業に広く内規、指図されているのであろう。彼女たちの主である工程に機動させられるミシンが断続的に音をなす。女工たちは息をつめ作業に没頭する機械となっている。茫漠と並んだ机のあいだに後ろ手を組んで歩いていた師長が、立ちどまり一人の女工の(目が切れ長なのに鼻が太くて目立つ)手順を止めさせる。
「お前」
「如何?」
「ポケット見ろを、縫い方、手順」
「此れ為?」
「表は好でも」
「でも?」
「ポケット縫い方裏側の縫うところ異なる」
「十分だと思われますが?」
「よく見ろ、(前の娘の一着をとる)見て何を思うか?」
「同じ裏側です」
師事が軽く溜息をつく
レスボス
ヒヤリハット
教授
「一度しか言わないからよく聞け、お前」
「ハイ」
「こちらのポケットの裏側はすこぶるよく縫えてある、褒めるに値する。お前のポケットの裏はよく縫えているようにみえる、だが肝心な所を蔑ろにしている」
「ハイ」
「つまりは縫い過ぎなのだ、お前のポケットは」
「ぬいすぎと?」
「そうだ、ポケットの裏側はポケットの裏側なのであって、それポケットに然らず」
「ハイ、裏側は裏側でしかないと」
「そうだ、お前のポケットの裏側は縫い過ぎているがゆえに、ポケットの裏側でなくなっている」
「そうですか?」
「ここから皆の手元の様子をみわたしてみろ、気づくから」
「ハイ」
可視光線
編纂
不実
「わかったか?」
「みんな熱心に励んでいます」
「それだけか?」
「真面目なのは好いことだと思われます」
「彼女を例えてみろ、今、まさにポケットの裏側を縫っている」
「ハイ、もう終わります」
「そこ也。そこがお前と彼女、彼女たちとの違いである」
「何ぞや?」
「彼女たちはポケットの裏を縫うとき全て縫わない。お前も縫っていないものも、縫ってしまっているものもある」
「ハイ、半半ぐらい」
「彼女たちはポケットの裏をポケットの裏たらしめるために、其処縫い切らず。ひとえにひとつの縫いきらない作業をしている」
「成程。そういわれてわかりました」
「わかったか?」
「つまりポケットの裏はポケットの裏として完成させなければいけない、私はポケットの裏なのに、ポケットの裏をポケットの裏として縫わず、そして過度に縫いすぎてポケットの裏でなくせしものでした」
「そうだ、つまりは、ポケットの裏はポケットの裏足らしめるために縫うことを途中で止めることにより、ポケットの裏として完全な作業となるところである」
「明白」
7peaks
挫折
風の便り
「ポケットの裏をポケットの裏たらしめる具体的な止め際、お前、其れ判るか」
「1センチ位?」
「否、其れだと大きい、中指が入る、お前はポケットの裏に中指が入るくらいの穴が、空いているのを知ったとき如何思う?」
「大きなあ穴があいていると思います」
「其れ不具合也、其れはこちらの望むるところで無し、つまり中指以内に作業を止める事必至、即ち留まる所、至極小指の細さに限る。其れ超えるも縮むるも良しとしない、此れ規範也、明白?」
「明白、ポケットの裏の縫い止め時、小指の太さと」
「非ず、太さ、此れ、細さである、明白?」
「明白!」
「好」
師長は指導を終えると、いくつも並んだミシン台の列を用心深い眼差しをして巡回していくのだった。
ムジナ
邂逅
グルーヴ

wright by 蟲士

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